|
|
独自のケアマニュアル、家族面談…
介護付き有料老人ホームに対する読売調査では、対応が難
しい認知症高齢者に対し、ケアを行う体制が「整っている」
とした所も6割に上った。
一方で、認知症による問題行動が原因で退去したという例
もあり、安心できる「ついのすみか」に向けた課題が浮き彫
りとなった。(社会保障部 安田武晴、中館聡子)
■入居前に家庭訪問
入居者の約7割が認知症という奈良市の介護付き有料老人
ホーム「エスティームライフ学園前」。月1回の職員ミーテ
ィングで、90歳代の認知症の女性へのケアが話し合われた。
「家事が好きだった人。調理への参加を勧めたい」「何で
も口に入れてしまうので心配。皿ふきなら可能では」。様々
な意見が飛び交った。
「暴力、徘徊(はいかい)などのいわゆる問題行動が見ら
れた時、まず行動に至った理由を職員がチームとなって探す。
個々に合った適切なケアで問題行動がなくなる場合も多い」
と三浦龍館長(52)は言う。介護の上乗せ費用は必要だが、
入居者に対する看護・介護職員の割合は基準の3倍近くと、
手厚い人員体制をとっている。
入居前には家庭訪問を行い、家族構成や経歴、若いころの
趣味などを聞き取る。「認知症の人は記憶が若いころに戻る
ことが多く、介護する際のヒントが隠されているから」だ。
さいたま市にある「センチュリーシティ大宮公園」でも、
ケアが難しい入居者への対応事例を基に、独自のケアマニュ
アルを作成。家族への面談や主治医からの説明の機会も頻繁
に設けている。
■早期診断は7割
調査では、認知症による対応困難な入居者にケアを行う体
制が「整っている」と答えたホームは63%に上り、「どち
らとも言えない」は32%、「整っていない」は4%だった。
また、68%のホームが「専門医による認知症の早期診断
を心がけている」と答えたほか、「施錠など、行動制限は行
っていない」は78%だった。徘徊する人などには、やむを
得ず行動を制限する場合があるが、「身体拘束の排除に関す
るケアマニュアルに従って対応している」は89%を占めた。
ケアへの取り組みで前向きな回答が多かった背景には、認
知症高齢者の増加に伴い、現実に対応せざるを得ないケース
が増えてきたことがあると見られる。全国有料老人ホーム協
会(東京)によると、「自立」を入居時の条件とするホーム
の場合、入居時の平均年齢は72歳、「要介護」が条件の場
合では80歳。10年前に比べ、いずれも2歳前後高くなっ
ているという。「介護保険制度が始まってからは、在宅介護
サービスを利用しながら自宅にぎりぎりまでいて、認知症な
どの要介護状態になってからホームに移る例が増えてきた」
ためだ。また、情報公表の動きにあわせ、ケアの質に対する
関心が高まってきたことも挙げられる。
■トラブルや悩み
一方、調査では、現場が抱える様々な悩みも寄せられた。最
も多かったのが、認知症とそうでない人の間でのトラブルだ。
「全室個室だが、徘徊する入居者が他室に入り、苦情が出
る」(広島県内のホーム)など、多くのホームが対応に苦慮
している様子がうかがえる。
診断に関する悩みも目立った。「専門医が少なく、内科医
に相談すると、安易に精神安定剤を出されてしまう」(大阪
府内のホーム)「正確な診断を受けていない人が少なくない。
事故などによる脳の障害と認知症の違いが分からない医療機
関も多い」(愛知県内のホーム)などの声が多く寄せられた。
◇
[調査方法]全国の介護付き有料老人ホーム2086ホー
ム(2007年11月開設分まで)が対象。07年11月末
から12月初めにかけて調査票を郵送。原則インターネット
による回答で、814ホームから回答を得た(回答率39%)。
問題行動、対応に差
調査では、過去1年間に退去者がいたホーム(死亡退去は除
く)のうち、認知症のため集団生活が困難との理由で退去した
人がいたホームが1割あることも判明した。
2件の退去事例があったという大阪府内のホームの場合、1
人は職員や他の入居者に暴行。もう1人は窓ガラスを割るなど
の行動が見られたため、家族と相談の上、いずれも退去しても
らった。「どちらも24時間の見守りが必要で、今の人員体制
ではとても無理」とこのホームでは話す。
多くのホームでは契約書に、他の入居者に危害を加えたり、
通常の介護方法では問題行動を防げなかったりする場合は、事
業者から契約を解除できるという条項を設けている。「集団生
活を営む限り、現実問題として必要。そうでなければ体を縛っ
たり、薬で静かにさせたりすることになってしまう」と都内の
ホームの施設長は打ち明ける。
だが、そうした条項を設けていないホームもある。川崎市に
ある「ヒルデモアたまプラーザ」では、解約条項を2年前に削
除した。「利用者や家族が一番困るのは、途中で出ていってく
れと言われること。『ついのすみか』をうたう限り、最後まで
介護できないのはどうか」との考えからだ。同ホームでは、提
携医療機関の医師による勉強会を定期的に開催している。
前国民生活センター調査室長の木間昭子さんは「介護付き有
料老人ホームの設置運営指導指針には『介護が必要となっても
居室で生活を継続することが可能』なホームとあり、認知症に
よる行動を理由に事業者側から解除できるとする条項は問題。
介護できない場合があるなら、それを明示する必要がある」と
言う。
ただ、実際問題として退去を迫られた場合、入居者らが拒否
するのは難しいため、「ホームを選ぶ際は都道府県の『介護サ
ービス情報の公表』で退去者数をチェックするほか、介護でき
ない場合はどういう状態かをよく確認してから契約を結ぶこと
が必要」と木間さんは話している。
有料老人ホーム
高齢者を対象に、食事や介護サービスなどを提供する施設。
「介護付き」(原則、ホームのスタッフが介護サービスを提供)
、「住宅型」(外部の在宅介護サービスを利用)、「健康型」
(介護が必要になったら退去)の3タイプがある。
(2008年2月17日 読売新聞)
http://www.d1.dion.ne.jp/~thpeng/miira/
|
|