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連日報じられるコムスン事件。「なんてひどい。それにしても、介護が
必要な人は着実に増え続けているんだろうなあ」と、私はぼんやりテレ
ビを見ていました。ところが事態は突然訪れるものです。義理の母親が
具合を悪くして夜間の緊急入院。たまたま実家を訪れていた次男である
私の夫が救急車の手配をしましたが、動転した義父は妻の病状を正確に
伝えることすらままならずオロオロするばかり。
それまでは老夫婦ふたり、なんとか支え合いながら暮らしていたのです
が、このことがきっかけで義父はすっかり自信を失ってしまいました。
ほどなく義母は退院できるまでに回復しましたが、とはいえ入浴の介助
や薬の管理など助けが必要になり、自宅へ戻らずにケアの付いた施設へ
お世話になるべしということになりました。
高齢者向け施設や住宅、介護サポートサービス店は思いのほかたくさん
ありました。特に都市部に多く種類もさまざま。「老健」「特養」「グ
ループホーム」「有料老人ホーム」…どれも似た響き。でも対象者やサ
ービス内容は異なります。かかる費用も違います。入居時に支払う一時
金はゼロ円から一億円を超えるものまで!!一般のマンション購入時の
ような「所有権」ではなく「終身利用権」を得るために払うだけ、毎月
の費用は別にかかるというのにです。
「夫婦ふたりで入居できる個室を希望」「夫は介護認定を受けていない」
「妻は他人との交流が苦手」の条件から「老健」と「特養」「グループ
ホーム」の選択は消去され「有料老人ホーム」に的を絞ることになりま
した。家族の往き来を考え、地域は私たち次男夫婦の暮らす町に。ちょ
うど部屋の空きが出たふたつの施設の見学を予約しました。
施設Aは、我が家から歩いて15分ほどのところにありました。そばには
河川敷を整備した公園もある住宅地の一角です。50人ちょっとが入居
できる中規模の施設で、サービス内容は「食事の提供など生活全般」
と「介護・健康管理」。ちょっとワンマンな感じだけど福祉に深い思
い入れがある女性園長がホームを明るく取り仕切り、看護師や介護スタ
ッフがフットワークよく働いています。医師もこまめに往診に立ち寄
ります。ただ15年前に病院だったところを譲り受けて始まったという
だけあって建物はかなり古い。次々とオープンするほかの介護施設に
比べると見劣りしないではありません。
施設Bは大きな駅の近くに立地し、周りには生活に必要な機関が揃っ
ています。建物はホテルばりのマンション形式。施設Aの倍以上の人
数を収容できる規模です。産地表示した食材で作られた食事はレス
トランのような食堂でとります。娯楽用防音室にビリヤードコーナ
ー、24時間利用できる大浴室も。居室の設備はむろん最先端。ただ
し介護が必要になったときには居室の利用権を返上し、介護専用フ
ロアーの狭い部屋に移らねばなりません。医療機関との連携が弱い
こと、夜間スタッフに看護師が含まれていないことも気になります。
何より入居一時金の負担が大きい。ためいき。
「有料老人ホーム」のほとんどは民間の企業が運営しているため多
彩です。どんなスタッフによるどういった内容のサービスが受けら
れるのか、費用はいくらかかるのか、立地や設備はどうか。介護は
もちろん医療機関との連携はどうなのか、食事は口に合いそうか、
ほかの入居者との距離感の具合はどうか。少しでも快適な日々を過
ごせるよう「健康」と「おさいふ」に相談しながら見極めなければ
なりません。そして、施設の倒産リスクも選定の項目に入れておく
べきでしょう。
頭ではわかっているのに、新しさに目を奪われ、私の心はすっかり
施設Bに傾いていました。両親がここでどんな暮らしをするのかを
想像しながら見学していたはずが、いつの間にか「いまの自分」が
基準になって考えていたのです。「費用は多少かかるかもしれない
けど、ここなら楽しく老後を送ることができるに違いない」そう思
いました。次男である私の夫も「内風呂に窓があるのは気持ちいい
なあ」とすっかり自分の家気分。
ここはさすがに冷静沈着な長男、義兄です。当面必要なことは、母
親の健康や飲み薬の管理と、緊急時の医療機関との連携。それに、
ほかの暮らし方に変える場合の資金を残す必要性などを鑑みると施
設Aの方がよかろうと言うのです。もっともです。家族で話し合った
結果、施設Aを選択し体験入居を経て一年間の入居契約を交わしまし
た。
幸い環境の変化によるストレスを訴えることもなく、義母は心身とも
に健康を取り戻しつつあります。老夫婦は積極的に新天地周辺を散歩
し、施設内のレクリエーションにも参加を試みています。たったふた
りだった暮らしからスタッフの目が行き届いた毎日に変わって心強く
なったのか、家事から解放された安堵感からなのか、義母の血色は日
に日によくなり笑うことも多くなりました。我々も頻繁に様子を伺う
ことが出来、ホッとしたことは言うまでもありません。
迫られて数日のうちに決めたにしては上手くいきました。けれど本人
たちには狭い選択の中から決めてもらったに過ぎず、本当に望んでい
た暮らしはどういうものなのか普段から知って準備しておくべきだっ
たと反省しています。現時点では、スタッフが真心込めて接してくれ
る施設Aはありがたく、「設備より人」だと実感。今後は本人たちの自
立という次のステップとして、「ケアハウス」「高齢者住宅」あるい
は「自宅介護」での生活も視野に入れてみようと考えています。その
ときは「デイサービス」や「訪問介護サービス」の存在はなくてはな
らないことでしょう。明日にも私の両親、そうこうしているうちに自
分たちの老後と心配は続きそうです。
2007年07月01日 どぅ・きゃすと 魚住 由紀
「日経マネーDIGITAL」FP快刀乱麻より (c)日経ホーム出版社
http://www.d1.dion.ne.jp/~thpeng/welfare/menu.html
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